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市場/たちすけ みわ

 小学生の頃、自宅の隣に、小さな小さな、市場があった。
小学校から自宅までは、市場の中を、突っ切るのが、一番の近道で、
毎日、ランドセル背負って、「ただいまー」と言うと、店の奥から、
おじさんおばさんが、顔を出して、「おかえりー」と言い、パン屋のおばさんが、
いろんなパンの屑を押し固めた、30円のケーキパンを、くれたりして、
鼻歌まじりに、意気揚々と、歩いて帰った。

 角の駄菓子屋には、カラスのように大きい、九官鳥が店番をしていて、
怖かったが、無口なおじさんが、おばさんのいない時を、見計らって、
薄荷味のキャンディーを、くれることがあった。
市場のおじさんおばさんたちには、本当に、よく可愛がってもらった。


 大人になって、少し離れた町の市場を、通りかかり、ふと、買い物してみよう
という気になった。接客のプロは皆、いい顔をしていて、つい、引き寄せられてしまう。
世間話ついでに、八百屋の店先で、焼いていた、焼き芋を二つ、もらって、
気を良くした帰り道、懐かしさが、込みあげてきた。

 あれから20年。
戦争時に、爆撃の標的にされないように、黒く塗ったままの、桜の木の校舎は、
今は、ただの空き地になった。
あの頃住んでいた、1階部分が、坂の下にあり、2階に玄関がある、おかしな作りの家もなく、
4年に一度の大祭を、仕切っていた、商店街のうるさ方も消え、閑散として、垢抜けない、
空気の濁った、ただの町に変わってしまった。
風が、夕餉の匂いを運ぶことはなくなり、今では、ウイルスと花粉を飛ばして、季節を知らせる。

 寂れた、小さな町は、似合いもしない、高層マンションを、手に入れて、
得意になってるかもしれないけれど、汗と埃が、交じり合う町並みを、
息苦しい、無機質の影に、変えないで。
面白みのない、きれいなマンションのために、小さくて、汚くて、愛しいものを、消さないで。
故郷を見捨てた人が、他人の土地を、平気で、荒らしてゆく。

 苛立ちながら、うつろう今が、今この時だけが、そんなにも大事だろうか。
今を生きるのは、明日のためなのに。
窓を伝う雨を眺めながら、渋滞に立ち向かう、バスの揺れに、身を任せた。
焼き芋のぬくもりが、心地よい眠りを誘う。
家路は、まだ遠い。

投稿者 apollo : 2006年04月20日 13:32

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コメント

ちいさな町の風景と匂い。
立ちのぼってくる、そこで生まれ育った人の想い。
?それらが直に感じられるような、文章だと思いました。

投稿者 沙香 : 2006年07月07日 19:04

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